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レイオーディオの1.25ミリの戦い



 サウンド・ステーションを納品に


 サウンド・ステーションを発売前からご予約頂いた埼玉県越谷市のYさん宅へ訪問です。もう既に、お得意さんとしてYさんにはBIG JAZZをアンプに、REX(A)をCDにとお使い頂いております。日曜日の昼という事もあってか首都高速はガラガラでした。



 シンプルで魅力に満ちた物ばかり


 東京との県境ですから、距離にして20キロ強です。とにかくあっという間に着きました。Yさんのシステムはレイオーディオを中心にまとめておられます。スピーカーはKM1Vという小型モニター。スタンドとセットで丁度100万円。


 パワーアンプがJDFで120万円、それにスライド式のパッシブコントローラーと、どちらもレイオーディオ製。CDはマランツの94LTDでしょうか?、信頼のスイングアームタイプの物。これは当時私も沢山売った経験のある物ですから懐かしく感じました。



 リスニングルームは6畳の洋間


 部屋は6畳の洋間ですが、幅の広い方にスピーカーを置いています。その関係でリスニングポイントまでの距離は大変近く、それも定在波を嫌って斜めに置いてあるものですから、なんとわなく落ち着かない違和感を覚えました。奥には金属パイプで出来たロフトベッド(2段ベッドの下の部分がないもの)が陣取っていますので実質5畳といった感じでしょうか。



 初めて体験する音


 何はともあれ、そのままの状態で音を聴かせていただきました。

 一音出た瞬間、まったく残響成分のない鳴り方は、

 私の長い今までのオーディオ経験の中では間違いなく筆頭です。

 ある意味、私の出している音と同一線上でもあり、対極にあるといってもいいものです。

 「ご注文頂いたサウンドステーションをセットさせて貰ったところで、

 はたして、気に入って頂けるのだろうか?」。

 正直言って不安がよぎりました。

 ですから、今日の私はいつも以上に慎重になっています。



 「さて!?、どうしたらいいものか?」


 過去に、『他人のステレオを単に自分好みの音に変えてしまった!』。

 と揶揄された寺島靖国さんの件がありますから、

 私の価値観をそのまま押しつけるわけにはいきません。

 学習効果を持ち合わせていないようでは私も笑われ者になりますから、

 今日はこのように切り出しました。

 「パッ、パッ、パッと鳴った後、殆ど残響のない大変歯切れのよい音ですが、

 この現状の音からどんな方向へ持って行きたいのか、

 頭の中にある音のイメージをお聞かせ頂けませんでしょうか?」。



 お客さんの気持ちをよく理解した上で


 すると、Yさんはこう答えました。

 『スピーカースタンドの下に使っているタオックの鉄製ベースのせいかどうかは分からないですが、音が汚く、こじんまりしているのを、もっと、エネルギーを持って前に出てくるようにしたい』とおっしゃる。

 
 「サウンドステーションを導入しますと、

 広がりと音のエネルギーはシッカリと前に出てくるようになりますが、

 今のようなタイトな状態からもう少し肉が付き、

 楽器の響き成分が出てくるようになります」。

 「そのライン上でタイト感を損なわず、

 どの程度の響きが加われば自然なのかという問題になってくると思います」。


 いざ!音出し


 「それでは、これから実際にセットしてみましょう」。

 「今のところオフセットにスピーカーを置いておられますが、

 一旦基本に戻して、壁面に平行に置いて見ますので、

 その状態で聴いてみてください」。

 声にふっくらとした温かみが出てきて、Yさんは気に入った様子。

 お客さんの顔色を見ればすぐに分かります。                  


 ”Kaiser Wave”の説明


 「今のところ、いい方向に行っているみたいですから、

 これから本格的に追い込んだセッティングをしていきましょう」。

 もう既に、私の「空間の時間軸の研究」についてはウェブ上で見て頂いているので、やろうとしている事については何の抵抗感もないみたいですが、Yさんは、はたして、そこまでの効果を実際に耳で聞いて分かるのだろうかと心配のようではあります。



 オフセットセッティングの説明


 完璧なセッティングをするに当たって、初めに何の為にそうするのか説明してからでないと、途中で不安な気持ちになってもらってもいけません。要するに、スピーカーのセッティングの目的は、如何にロスなく、その部屋の空気を有効に動かせるかに尽きます。

 その為には、スピーカーが両サイドの真ん中にあることが理想です。幸いにベッドの下の部分には何もありませんので、空気の通り道としては計算に入れることが出来ます。そうすれば、少しでも有効にエアーボリュームを生かせます。


 私の推薦プラン


 問題点があるからそれから避けて通るという考え方があってもいいですし、もう一つは、その問題を正面から受け止め、どう対応する事が後に最良につながるのかという考えです。私は後者を是非採って欲しいと訴えました。

 いずれにせよ、「真っ向から問題点と向き合って解決してみませんか?」。

 Yさんにとっては思ってもいないようなプランニングの連続でしょうから、少し不安げな顔を覗かせることはあるみたいです。特に前後の空間の時間軸合わせが最大のポイントになりますので、それには慎重に時間を掛けます。


 色々な条件の中からサウンド・ステーションのフロントエンドが壁から850ミリの所を任意の点に仮決めします。もし、あとひと山後ろに良いポイントがあった時にずらせる余裕を持たせる意味合いからです。


 スタンド下にDADDY JAZZを入れて試聴


 事前にスピーカースタンドとサウンド・ステーションの間にDADDY JAZZを入れて試聴してみたいという事を伺っていましたので、すでにこの時点で入れて聴いていただく事にします。スタンドの構造上4点支持でセットしました。当然のことながら、サウンド・ステーションの真ん中にスピーカースタンドが来るようにフロントエンドから50ミリのところに合わせ込みます。


 アピトン合板製スタンドとサウンド・ステーションの木と木の時よりも、音の切れ込み面で一番大きく違いが出たようです。さらに、音楽の抑揚に効果があったと思います。したがって、強弱の表現が細やかに出てくるようになりました。


 ”Kaiser Wave” コンペティション


 先ず初めに1回戦として、後ろに80ミリ下がった770対930(80ミリ前)の聴き比べになります。

 似たような傾向の音ではありますが、930の方は少し風邪を引いたような音で明らかに770の勝ちです。


 次なる挑戦者は今日の起点となった850です。これは1秒と聴くまでもなくぜんぜん違います。

 先ほどの930よりも、もっとスカスカの音です。

 その中間に位置する810が挑戦者ですが、これは圧倒的な強さで810が1本勝ちです。


 デジタルな戦い


 新しく変わった暫定王者の810には790が挑戦者となって挑みます。

 このようにして次々と細分化して、勝ち抜き合戦をしていくのですが、

 始めた時には160ミリもあった両者の距離は、4回戦のここでもう既に20ミリに接近しております。

 790も張り切って挑戦したものの適いませんでした。


 ここらあたりから厳しい闘いになってきそうな予感がします。

 新たな挑戦者800と、2回勝ち抜いている810との距離は鼻と鼻先がくっつきそうな10ミリになっております。

 『はっけ〜よい!、のこった!』といった瞬間に挑戦者が勝っていました。

 これは強豪が現れました、800は接近戦にめっぽう強そうです。

 次なる805とは、たった5ミリの接近戦ですが、圧倒的な強さでまたもや800の勝ちです。


 次第に研ぎ澄まされる集中力


 初めは、Yさんもけげんな表情から始まったのですが、ここらあたりに来てからは本当に音が手に取るように見えるようになって来たのでしょう。私よりも集中力が研ぎ澄まされているようです。そりゃ〜、自分のシステムですから必死になるでしょう。

 ですから、ここら辺りからは一人でスピーカーの位置決めをしてもらった方が狂いが少なく良いはずです。そんな訳で、微調整はYさんにお任せしながら、私はもっぱらこの「音のカラクリ」を解き明かす事にクールでいるのでした。


 究極の領域での戦い


 一息入れたところで、また厳しいマッチプレーが始まります。2.5ミリの戦いの新たな挑戦者は802.5です。しかし、あえなく敗退しました。本当に800は接近戦に強いです。


 とうとう、挑戦者801.25の1.25ミリの戦いになってきたところで、結果は私もYさんも初めて迷い、判断がつかなくなりました。これは両者引き分けです。そこで、落ち着いてもう一つ逆戻りして耳を休ませる意味もあり、795と800とを聴き比べてみる事にしました。

 それでもやはり、800の勝ちです。という事は、限りなく800が優勝に近い位置にいることだけは確かです。

 さらに細分化して、797.5ですが、これも適いません。やはり800が強いのです。


 ”定在波”皆無の横綱誕生


 そして、先ほど優劣の判断が出来なかった1.25ミリの戦いに、もう一人の若い挑戦者798.75が暫定王者として残った800に挑む事になりました。



 これは凄い!。ハッキリとした形で勝負がついたのです。ここで新たな横綱の誕生です。たった1回の勝負で横綱を射止めてしまいました。初めての綱取りでものにしてしまったのは初場所の朝青龍のようです。


 まるで超伝導の世界!


 どうでしょう!、板張りのビンビンに暴れまくるであろう部屋には、気がついてみたら見事なまでの音楽が満ち満ちていて「”定在波”なんてどこの国の話?」というありさまです。ここでまた新たな新発見は、その部屋とスピーカーとの呼吸がピッタリ合えば、起こるはずの”定在波”も一緒に味方になってくれて共生出来るのです。これは、まるで超伝導の世界みたいです。


 書いている内に最後は相撲の話になってしまいましたが、今回こうして、「同一時空間」でYさんと私の共通体験から導き出した、6畳洋間に於ける理想のスピーカーセッティングの出来事でした。


 カイザー流、最後の追い込み


 この緊張が解けた後でも、どうしても気になるのは、やはり音像がスピーカーの内側にこじんまりしてしまうことです。なるほど、初めにYさんのご指摘にあったとおりで、今では私自身も同じような気持ちです。サウンド・ステーションを入れて大分良くはなったのですが、まだ全体の流れがよくないのはどこかに”抵抗勢力”があるからです。


 振動の基軸を合わせる

 
 「合板だから、あまり効果は出ないかなぁ?」と思いつつも、先ず手始めに、パワーアンプの下に敷いてあるアピトン合板の方向をチェックする事にしました。形状から見る限りどちらの向きに使ってもいいようになっている物です。

 前後は合っていましたが、天地を反対にした方がいいみたいです。そのついでに、スピーカースタンドとの関係において、両者の振動の基軸を合わせるために、前後・左右とも真ん中に来るようにします。


 合板であっても予想以上の効果

 これは効きました!。音楽のテンポが明確になり、また、何よりスケール感が20〜30%方上がった事が大きいです。合板であってもこれだけ響きの方向に大きく左右されている事が明らかになったのですから、いきおいスピーカースタンドに目が行かないはずはありません。

 実は、私が最初から一番気になっていたのはスピーカースタンドの組まれ方なんです。一つ一つをばらして響きの方向を徹底的に調べて行きますと、スタンドのほとんどのパーツも左右入れ替える事になりました。


 その徹底ぶりはそれらを連結しているボルトやナットに至るまですべてチェックします。また、スピーカー自体も左右を入れ替えた方がいいみたいです。それにしても、ここまでやるのは、世界広しといえど私以外に絶対いないでしょう。


 合板素材と無垢木


 今回私の頭の片隅にあった事は、レイオーディオのエンクロージャーに使われているアピトン製合板と、サウンド・ステーションの素材であるハードメイプルの無垢木がはたしてハーモニーしてくれるのだろうかという心配でした。

 ご承知のように、合板という構造は木の繊維を90度ずつ交互に張り合わせてある物です。したがって、狂いが生じにくいという長所がある反面、音については”パッパッ”と止まるような傾向があります。


 流れにくい物⇒流れやすい物へ


 無垢木は響きが美しい反面、狂いが生じやすいという長所と短所がお互い裏腹の関係にあるものです。響きには程度問題がありますが、音楽の旋律としては”流れ”というものを必要とします。

 その両者の振動の流れの方向を上手く揃えることに成功したのは、Yさんが私の腕を信じてスピーカースタンドをバラシテ組み直すという作業をO.Kしてくれたところにあります。ちなみに、ローゼンクランツのサウンド・ステーションは「前に」、「上に」、「外に」広がるように設計されております。今回は、その考えに沿うように組み直したのです。

 「流れにくい物から流れやすい物」に引き継がれたから好結果が出たのですが、「流れの良い状態から流れにくくなる」という、これが逆の場合であれば、却ってストレスを感じる結果になり、よどみのない美しい音楽性は手にし得なかったでしょう。


 ダテじゃなかった世界の木下


 やるだけの事をやったらKM1Vはとんでもない怪物に化けてしまいました。ここまで追い込んで出てきた音は、やはり、世界の木下でした。40歳にもならないYさんが私の好きなナット・キング・コールをかけた時には最高でした。


 トンデモナイ音質のディスク


 『懐古趣味であるわけではないのですが、

 気がついた時には、

 自然とこの時代のものが多くなっていたんです・・・』。

 と気恥ずかしそうに話すYさん。

 「当然です!、誰が聴いても良いものは良いのです」。

 そう言いながら、Yさんがおもむろに出してきたのは、

 トンデモナイ音質のディスクです。

 「うぅ〜む・・・、この感じの音は昔聞いたことがあるぞ!?」。
 
 ディスクでは出ない音!。

 そう!、まるでマスターテープの音そのもの!。

 お尋ねすると、行方洋一(なめかた)さんが手作りでマスターテープからダイレクトでCDRに記録した物らしい。値段も超一流1枚30,000円なり。しかし、オーディオチェック用にこの1枚は持っておいても充分に価値のあるものです。


 お客さんの笑顔が一番嬉しい


 気分が良くなったのでしょう、『コーヒーを入れてきます』といって1階の方へ彼が降りて行ってるわずか10分位の間に、とんでもなく良い音に変化して行っているのです。コーヒーを持って上がってきた彼の驚いた様子は、目が”クルン、クルン”になっていました。

 そして、気持ちよくDADDY JAZZを8個買って下さいましてありがとうございました。


 後日お客様からメールきました


 ----- Original Message -----
 From: "H.Y"
 To: <info@rosenkranz.com>
 Sent: Friday, February 07, 2003 1:34 AM
 Subject: 2/2の感想


 貝崎 殿

 H.Y。

 遅くなりましたが、感想文を送付します。


 貝崎さんが拙宅にやって来ました。まずは、現状の音をお聞きいただきました。どのような音にしたいのか訊かれたので、「粉っぽくなく、エネルギーが前に出てくるような音」とお伝えしました。

 スピーカースタンドの下に敷いていたタオック4547Bをサウンド・ステーションに替えただけでも、タオック固有の金属音がなくなり、音がのびのびとしてきました。この方向性は、予想通りの効果でした。

 片チャンネルだけPB-DADDY JAZZを入れ音質を確認した所、これまた予想通りの音!。セッティングの検討は、インシュレーターを入れて行うことにしました。まず、一旦まっさらの状態にして音の確認です。

 具体的には、スピーカーの背後にセットしていた自作の吸音板(高密度グラス ウール製)を取り払い、壁面に平行にスピーカーをセットしました。このとき、左右の壁からもそれぞれのスピーカーが同一距離になるようにしました。出てきた音は、かすれた汚らしい音!。

 次に、ホームページに書かれているように、前後の音質比較を行いました。「はたして、素人の私が細かな音の差を聞き分けられるのか?」、という不安がよぎりました。最初は、ソニーロリンズの「サキソフォンコロッサス」で聴き比べをして いたのですが、聴き進めていくうちに、わからなくなってしまいました。
 
 そこで貝崎さんが、「ボーカルを聴いてみましょう」と提案され、ソフトを替えました。あえて高音質ではないJ-POPにしました。島谷ひとみ「亜麻色マキシ」(AVCD-30382)です。するとどうでしょう?。いい悪いの判断が容易にできるようになりました。

 
 いい音=声が朗々とする。

 悪い音=声がハスキーになる。

 この違いは明確です。

 『人の耳は、人の声を聞き分けられるようにできているんです』。

 という貝崎さんの説明に思わず納得!。

 最終的にはわずか1.25mmまで追い込んだわけですが、

 ここまで聞き分けられたのは自分でも驚きです。


 そのことに対しても貝崎さんは、

 『ローゼンクランツのインシュレーターは1/100mmの精度までコントロールしています。

 1mm程度のセッティングの差が聞き分けられて当然です』。

 と、お答えになりました。


 そうです、もともと我々にはその能力が備わっているのです。ただ、いいコンディションで音楽を聴くことはまれなので、本来あるべき姿を知らないだけなのです。位相が合っている音とは、まさにこういう音なんだと納得できました。

 もう1つ勉強になったのは、見た目が大切だということです。貝崎さんが部屋に入ったとき、小さなスピーカーの割には威圧感があると思われたようです。セッティング後の姿は収まる所に収まったという感じで、部屋との調和がとれています。音も部屋と完全に一体になっています。また、ノイズカットトランスの向きを変えたときも、理論的にはなかなか説明がつきませんが、よい方向に変化したのが事実です。

 最後になりますが、今の音は、自分にとってエネルギーがやや希薄な印象が あります。これは、スピーカーを内振りにすることによって解決できると考えています。ただ、ウーハーの付け根を軸にして内振りにするのは至難の業です。今の音を基準として、新たな目標ができました。まあ、気長にやっていこうと思っています。長時間にわたりご調整いただき、ありがとうございました。


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